読書

【ネタバレなし】黒武御神火御殿 三島屋変調百物語六之続 感想

宮部みゆきの「黒武御神火御殿」っておもしろいのかな?




この記事では、「黒武御神火御殿(くろたけごじんかごでん)」の魅力をあらすじや感想を交えながらご紹介します。

三島屋変調百物語シリーズは、どの作品もおもしろい。

第6作目の本作も、相変わらず面白く、寝不足必死の作品です。


この記事でわかること

  •  三島屋変調百物語とは
  •  あらすじ
  •  感想 よい点と悪い点



この記事を書いたひと

  • 三島屋変調百物語シリーズファン
  • 宮部みゆき ファン
  • 読書好きで小説をよく読む




第6作目ですが、ここから読んでもいい?

第1作目 「おそろし」から読むことを強くおススメ。



短編集ですので、作中たいしたネタバレもありません。

読む分には、支障はありませんが、シリーズ大ファンの私としては、

  • 前作5巻まで、どれもおもろいから
  • 主人公の交代 本作から新章スタートしている
  • シリーズ物は、なんだかんだはじめから読んだ方が楽しめる

5巻まであり、1冊1冊がボリュームあります。

しかし、おもしろさは保証します。

あの稀代のベストセラー作家「宮部みゆき」の『ライフワーク』と謳っているシリーズです。



第1作目「おそろし」の表紙はこんな感じ。

(リンク先のアマゾン評価もご覧ください!すごく評価が高く★4.5)

「おそろし」を買わず、地元の図書館で試しに無料で読んでみるのもおススメ。



1巻読んでみて、ハマれば、1~5巻まで合わせた「合本」(電子書籍)もご検討ください。



本記事をご覧いただければ、「黒武御神火御殿 三島屋変調百物語六之続」に興味を持っていただき、読んでみたくなります。



三島屋変調百物語とは

【ファンが語る!】3つの魅力

  • 江戸の怪談話(背筋がゾクッとする)
  • 1対1で「語り手」が語る怪談話を「聞き手」が聞くスタイル
  • 怖い話ばかりでなく、ホッとする怪談話もある



三島屋変調百物語とは、江戸での人気の袋物屋・三島屋で行われている〈変わり百物語〉。

「語って語り捨て、聞いて聞き捨て」をルールに黒白の間と名付けられた座敷を訪れた客が、聞き手だけに胸にしまってきた怖い話や不思議な話を語っていく連作短編集。

二〇〇六年から宮部みゆきが精力的に書き継いでいる時代小説シリーズであり、一四年にはNHK-BSプレミアムにて波瑠主演『おそろし 三島屋変調百物語』として連続ドラマ化された。


引用 宮部みゆき「三島屋変調百物語」シリーズ特設サイト より



出典 NHK ザ・プレミアム 「おそろし ~三島屋変調百物語」より

NHK ザ・プレミアム 「おそろし ~三島屋変調百物語」

波瑠さんは、主人公 おちか「美人で、一本ピシッとした芯の強さを持つ女性」のイメージどおり!

他のキャストも最高で、とても楽しかったです。



出典 宮部みゆき「三島屋変調百物語」シリーズ特設サイト|KADOKAWA より

登場人物が多そうに見えますが、

  • メインは、富次郎(主人公)、お勝、おしま(共に三島屋女中)、語り手(ゲスト)の4人。
  • 主人公は、 おちか→富次郎 に本作から変更



より詳しい特設サイトがあります。

宮部みゆき「三島屋変調百物語」シリーズ特設サイト|KADOKAWA



あらすじ

宮部みゆきのライフワーク<三島屋変調百物語>シリーズ第6弾


江戸は神田の袋物屋・三島屋で続く、一風変わった百物語。

これまで聞き手を務めてきた三島屋主人・伊兵衛の姪のおちかが、めでたく嫁にいったので、次なる聞き手は伊兵衛の次男・富次郎に。


気さくで気がよい旨いものが好き、跡取りではないから「小旦那」と自称する富次郎。

おちかが聞き手だったころ、ふとした縁の導きがあって三島屋に入り、百物語の守り役となったお勝。

富次郎が幼いころから三島屋に奉公してきた古参の女中、おしま。

この三人で語り手を迎え、新たな百物語の幕が開く。


再会した友が語り始める一家離散の恐ろしい運命(第一話「泣きぼくろ」)

村の女たちが<絶景の丘>に登ってはならない理由(第二話「姑の墓」)

妻子を失った走り飛脚が道中めぐりあう怪異(第三話「同行二人」)

異形の屋敷に迷い込んだ者たちを待つ運命(第四話「黒武御神火御殿」)


恐ろしくも愛おしい極めつきの怪異と不思議。

心揺さぶる江戸怪談、新章突入!


引用 アマゾン 『黒武御神火御殿 三島屋変調百物語六之続』 より



第1話のさわりのあらすじを追加します。

続きが読んでみたい!

と思っていただければ、うれしいです。



第一話 「泣きぼくろ」 あらすじ

(どきどきするなぁ。)

これまで「聞き手」を務めていたおちかの前で、「後は任せろ」を言ってはみたものの、いざとなると落ち着かない2代目聞き手 富次郎。

今日の「語り手」が富次郎にとって初陣である。



「小旦那様、黒白の間のお客様がお見えになりましたよ」

古参の女中 おしまがそう知らせてくれたとき、富次郎は、気分をしゃっきりさせるために、自分の頬を両手でパンと叩いた。



今日が初陣ということもあり、三島屋のおかみであり、富次郎の母 お民も様子を見に来ている。

「気合を入れてお行き。いい人に出会ったら、お見合いの手間がなくなる」

「嫌ですよ、おっかさん」

なんて切り返す富次郎であったが、花のような乙女が来たらいいなという期待もないわけではないが・・・



富次郎の初めてのお客は顔見知り?

「ようこそ三島屋の変わり百物語においでくださいました」

丁重に挨拶して、頭を持ち上げる富次郎。

その目に飛び込んできた「語り手」の姿を見て、下心を片付けた。

黒白の間の上座布団に、ちょこんと行儀よく座っていたのは、富次郎と同じくらいの年恰好の若い男。

富次郎より、小柄の男である。

見たところ、小さな商家のせがれか、そこそこ大きなお店の奉公人のように見える。



「三島屋の富次郎さん、手前の顔をお忘れですか?」

富次郎は、面食らった。

こういう始まり方は、さすがに予想すらしていなかったからである。



「どこかで、お会いしていますかね?」

「ええ、ガキのころです」

しゅっとした笑み、ちんまり整った色白で小作りな顔。

(あれ?なんか見覚えあるような・・・)



「神田佐久間町の子だくさんの豆腐屋の・・・」

そこで、富次郎も思い出した。

「お豆のはっちゃん!」

語り手 八太郎と富次郎は子供のころの友達。

同じ手習い所に通った仲である。



一家離散に追い込んだその理由とは・・・

久しぶりの再会に、思い出話に花が咲く。

しかし・・・

「実家の豆腐屋は、おやじが死んで遠縁に渡されたんだ。死んだおやじの味が10なら、遠縁が作るいまの豆腐は3くらいの味です」

「そうなのか・・・」

富次郎が覚えていた、おいしい豆腐屋はとうの昔になくなっていたのだ。

「あのとき、うちの家族はばらばらになっちまったんだ。その経緯が結構珍しいもので、変わり百物語にぴったりかなぁって、今日はよせてもらったのです」



当時、八太郎は8才。詳しいことは分からなかった。

しかし、八太郎自身が成長し、結婚し子供が生まれたことがきっかけで昔のゴタゴタを思い返したのだ。



「えっと・・・どこから語ればいいかなぁ」

八太郎から語られるのは、仲のよかった家族を一家離散にまで追い込んだ、身の毛もよだつ恐ろしい物語だった・・・



よい点

よい点を、3点挙げてみました。

よい点

  • ページを開けば、すぐ江戸の町へ行ける没入感
  • 主人公交代が成功 おちか→富次郎
  • 第四話「黒武御神火御殿」が素晴らしい出来



ページを開けば、すぐ江戸の町へ行ける没入感

江戸の町を丁寧に描写

江戸の町の人々の暮らしぶり、町の風景、季節の移り変わりなど。

1ページ目から、読者をスッと江戸時代に連れて行ってくれます。

江戸時代の雰囲気を描かせたら、宮部みゆきに勝る作家はいません。

まるで、江戸の町をご自身の目で見てきたように、空気感も描いてしまう、宮部みゆきの筆力は本当に見事です。



気分は、三島屋の一員に

三島屋のどこか暖かさの感じるお店の雰囲気、三島屋の魅力的な人々。

シリーズで読んでいくと、本を開けば、自分も「三島屋の一員」になった気分を味わえます。

江戸時代にタイムスリップした上に、さらに商人「三島屋の一員」になる。

三島屋にポツンと自分がいて、目の前で話が進んでいる、そんな錯覚すら覚えます。



この没入感のすごさは、宮部みゆきの時代物の作品に共通するもの。

宮部みゆきの時代物が人気が高いのは、このとてつもない没入感です。



主人公交代が成功 おちか→富次郎

江戸を生きる商人感がUP

新主人公 富次郎は、三島屋の次男坊。

単純に、三島屋で生まれ育った人が主人公に変わっただけで三島屋をより身近に感じることができます。

それと同時に、三島屋を通じて、江戸の町や商人が読者とさらに近くなりました。

前シリーズの主人公 おちかは、厳密に言えば三島屋の人間ではありません。

「三島屋変調百物語」と銘打ちながら、そんな違和感は主人公が交代してみて、私は気づきました。



また、富次郎がおいしいものやお菓子が好きという設定も江戸の商人らしさのUPに一役買っています。

小説で、江戸時代のおいしいものといえば、パっと真っ先に思い浮かぶのは、池波正太郎の「鬼平犯科帳」「剣客商売」。

池波作品で、作中で描かれる、江戸時代らしいおいしそうな食べ物たち。



あと、江戸時代のおいしいものといえば、落語が思い浮かびます。

落語を聞いて(見ている)いると、うどんを食べるシーンやお酒をグイっと飲むシーンがよく出てきます。

落語家は本当に上手で、扇子一つにもかかわらず、おいしそうに食べますよね。

引用 全楽師匠が実演! 落語における扇子、手ぬぐいの使い方 より

引用 京都ノートルダム女子大学 人間文化学科 より

江戸時代にあったおいしいものを、作中に登場させることで、江戸の町の商人っぽさがより出ています。



落語を思わせる世界観に変わった

悲壮感があったおちかが退場したことで、全体的にのんびりした世界観に変わりました。

しっかり者の優等生のお目付け役が急にいなくりざわざわとした教室、そんな感じです。



また、徳次郎が、聞いた怖い話をのんびりとした性格で、やんわりと受け止めてしまうことも一役買っています。

そうしたのんびりした江戸の町の世界観に、先に触れたように、江戸時代のおいしい食べ物が加わります。

おちかがいなくなり、男性比率があがったこともあり、落語のようなどこかおかしみのある世界に変わりました。

落語で有名な登場人物「熊さん」「八っつぁん」(はっつぁん)がひょっこり出てきそうです。



第四話「黒武御神火御殿」が素晴らしい出来

表題にふさわしく、内容も濃くとても素晴らしい作品です。

第4話だけ、短編レベルではなく長編小説1冊分ほどのボリュームがあります。



ある程度の長さがあるので、伏線の貼り方や回収までガチっとしっかりしたつくり。



短編は、おもしろさをギュッと詰め込んだよさがあります。

ただ、おもしろいんだけど早く終わってしまうデメリットがあります。



第四話「黒武御神火御殿」 は、始まりの部分からいつもの「短編」と様子が違っています。

ネタバレになりますので、詳細は伏せます。

「よくこんな話を、宮部さんはよく思いつくなぁ」と感心してしまうほどの出来だとお伝えだけしておきます。



悪い点

大好きなシリーズですので、手放しで賞賛したいところ。

あえて粗を探せば、というレベルですが悪い点を挙げてみます。

悪い点

  • 怖さが足りない
  • 華がない
  • 第4話が長すぎる



怖さが足りない

今作は、4話の短編を収録していますが、パンチが足りません。



「三島屋変調百物語」シリーズの魅力でもありましたが、「背筋がゾクッとする怖い話かホッとする話か読んでみないと分からないこと」。

そのどちらに転んでも、オチは非常に印象的な作品が多いことが特徴。

今作は、4話とももう一歩手前で止まってしまった感があります。



いま一歩、踏み込みの甘いオチの弱さが、「印象深い物語だったなぁ」という読書後の感想から遠ざけてしまっています。

1話読み終わって、本を閉じて「う~ん」と少し考えさせられる読書体験、それが今作ではあまりありませんでした。



もっとも、「怖い話」か「ホッとする話」か読んでみないと分からないことは変わりません。

怖いだけの怪談とは少し違う「変調」ですから、読者としては飽きません。

次回作を楽しみにさせてくれるシリーズです。

華がない

本作から主人公が男性に変わったことで、絵的には「語り手の男と聞き手の男」が向かい合うもの。

新主人公 富次郎のおかげで、江戸の町や江戸時代らしい雰囲気は格段に上がりました。

一方で、「華がない」のも事実。



これだけの美人がいなくなれば、華がなくなるのは当然でしょうか?

ファンとしては、続編のドラマ化を希望しています。



「華やかさ」を取り入れて成功したのが、福山雅治さん主演のガリレオシリーズ。

シリーズ当初、小説で読むと「ガリレオと草薙刑事」のおじさんペア×科学というなんとも加齢臭が漂う、男臭い印象のシリーズでした。

それが、ドラマ化に伴い途中から内海薫(柴咲コウさん)という若い女刑事が加わります。

ガリレオ×内海刑事が中心になることで、ずいぶん華やかになりドラマ・映画の大ヒットに繋がりました。



そういう意味では、華がなくなったことは、ドラマの続編化は一歩遠のいた印象です。



いろいろ取ってつけていますが、ファンとして「おちかにまた戻ってきてほしい」が本音。

シリーズの中心で大きく美しい華であり続けたおちかがいなくなったため、胸にぽっかり穴が開いてしまいました。

シリーズを通じて幸せになってほしいと願い続けたおちかが、ようやく幸せをつかみ、三島屋を旅立っていった。

「娘を嫁に送り出した父親のさみしさ」のような感情もあるようです。



いずれにしても、おちかという華がなくなってみて初めてその偉大さに気づいたということです。



第4話が長すぎる

繰り返しになりますが、 第4話「 黒武御神火御殿 」は、本作の中で一番の出来です。

ただ、第4話は読んでみたら、思いのほか長編で面食らったというお話になります。



分量としては、短編ではなく一冊の小説並み。

分量だけでなく、仕掛けや、伏線回収、物語の展開を含めても、長編小説です。



私の場合、長編小説と短編小説では、手に取る際に動機が異なります。

  • 一つの濃厚な物語や世界観に、どっぷり浸りたいときは「長編」
  • ササっと読めて、ギュッとおいしいところを短時間で楽しみたいときは「短編」

気分の問題ですが、そんな使い分けをしています。

「サッと読んで、おいしいところを短時間で楽しみたい」と読んでいたら、いきなり濃厚なこってりしたものを目の前にドンッと出てきた、そんな戸惑い。



「第4話は短編ではなく、けっこう長いぞ」

これを事前に頭に入れておけばいいだけです。



第4話は、内容は素晴らしいけど、長編小説並みの長さがある。

私のように、短編長編ともに読む動機が違う方は少し注意が必要です。



まとめ:シリーズの面白さは健在!表題「黒武御神火御殿 」は傑作!

この記事では、三島屋変調百物語シリーズ6作目 「黒武御神火御殿」をご紹介させていただきました。



傑作ぞろいで、非常に面白い作品が並んだ珠玉の短編集です。

第4話 「黒武御神火御殿」の長さは驚かされますが、多くの方に読んでいただきたい作品。



よい点

  • ページを開けば、すぐ江戸の町へ行ける没入感
  • 主人公交代が成功 おちか→富次郎
  • 第四話「黒武御神火御殿」が素晴らしい出来

悪い点

  • 怖さが足りない
  • 華がない
  • 第4話が長すぎる

宮部みゆきさんは、稀代のストーリーテラーであり、超売れっ子作家。

私は、多くの宮部みゆき作品を読んでいます。

個人的な感想ですが、「宮部みゆき作品は、現代ものより時代劇物の方がおもしろい」です。



「宮部みゆきって何から読んだらいい?」

と聞かれたら、迷わず、「三島屋シリーズがおススメです」とお伝えします。



よろしければ、どうぞ。

-読書