
「私本太平記」っておもしろい?
この記事では、吉川英治作 長編歴史小説「私本太平記」の魅力をお伝えします。
事前に知っておくと物語をより楽しめる情報、よい点悪い点に触れていきます。
この記事でわかること
- 「太平記」とは?
- 【より物語を楽しむために】事前に知っておきたい情報
- 「私本太平記」のよい点、悪い点
この記事を書いたひと

- 吉川英治ファン
- 無類の本好き
- 太平記ファン
この記事を読むとこんなメリットがあります
- 【読む前に】物語をより楽しめる情報が得られる
- 「私本太平記」が、読みたくなる
- 南北朝時代に興味が持てる
「新・平家物語」を楽しめた方は、特に楽しめる作品です。
南北朝時代は、大河ドラマでもほとんど扱わない、「人気がない」時代。
しかし、「私本太平記」を読んでみると、物語が進むにつれおもしろさが、グングン加速していきます。
多くの方に、おもしろさや魅力が伝わればと考え、記事にしてみました。
太平記とは

後醍醐天皇即位(1318年)から、鎌倉幕府滅亡(1333年)。
建武の新政を経て、南北朝時代までを描く『軍記物語』。
日本の14世紀半ばから末まで、約50年間の話となります。
- 全40巻。日本の歴史文学では最長。
- 作者は不明。複数の人によって書かれた
- 内容に誤りあるため、資料的価値が低い

『平家物語』と比較すると、完成度が低いとの指摘もあります。
私本太平記

著者は、吉川英治さん。
『太平記』を題材にした長編歴史小説で、全8巻(講談社文庫版)。
同じ吉川英治作品「新・平家物語」に続く大作。
明治体制では天皇に背いた大悪人とされた足利尊氏(高氏)、南朝の大忠臣として美化されていた楠木正成など、イデオロギー的に語られ、 戦前は一種のタブーであった日本の南北朝時代を、尊氏を主役に新たな解釈を加えて描く。
楠木正成も温厚な苦悩の人として描かれ、戦前の忠臣のイメージを大きく変えている。引用 Wikipedia 「私本太平記」 より
私本太平記を、より楽しむための情報(ネタバレあり)

※以下、ネタバレします。ネタバレしたくない方は飛ばしてください。
ここでは知っておくと、より「私本太平記」を楽しめる情報を2つご紹介します。
- 「私本太平記」の主な舞台
- 新田義貞の鎌倉攻め、新田軍と幕府軍の動き
「私本太平記」の主な舞台
読んでいて、地名と場所が頭の中で一致せず、私はとても苦労しました。
たとえば、『隠岐(いき)』と聞いて、日本のどこのことなのか、ピンこない方も多いはず。
『私本太平記』での主な事件と場所は、以下の地図が分かりやすいです。


この出来事は、このあたりで起きたのか!
を大まかでも知っておくと、「私本太平記」をより楽しめます。
ちなみに、後醍醐天皇の流刑先、隠岐を地図で見てみると、


京都からすごく遠い!
しかも、小さい島!
新田義貞の鎌倉攻め、新田軍と幕府軍の動き
読んでいて分かりにくかったのは、「新田義貞の鎌倉攻め」における、新田軍と幕府軍の戦いの推移。
以下の地図が、分かりやすいです。
新田軍、幕府軍の動きを、おおまかでも把握しておくと物語が、よりおもしろくなります。


このシーンは読んでいても、さっぱりイメージできませんでした・・・
地図1枚あると、全然違います!
大河ドラマ『太平記』

「私本太平記」は、『太平記(NHK大河ドラマ)』の原作になりました。
1991年 第29作目。
主演は、真田広之さん(足利尊氏役)
私は、リアルタイムで見ていました。
いくつか見た大河ドラマの中でも、「太平記(大河ドラマ)」は、かなりおもしろかった印象があります。
- 真田広之さんが、すごくイケメン
- 高島政伸さんの足利直義(尊氏の弟)。鬼気迫る演技が強烈。
- 陣内孝則さんの佐々木道誉。敵か味方か?腹のうちが読めない
残念ながら、『太平記(大河ドラマ)』は、オリジナルストーリーでドラマ化。
『私本太平記』原作といいつつ、大きく内容が異なります。
上記DVDセットは、19,800円。
さらに1,2巻ありますので、19,800円×2つ=39,600円とかなり高額。
気になる方は、買わずにゲオでレンタルが、おススメ。
以下は、アマゾンで見つけたレビュー。
「太平記(大河ドラマ)」は、まさに「べた褒め」。
全部ご覧いただくと大変ですので、赤線を引いたところだけ、ご覧ください。



※赤線部分は、分かりやすいように私のほうで、引かせていだたきました。

へぇ、太平記って、そんなにおもしろいんだ!
あまり知らなかった方にも、興味をもっていたいただければと思い、紹介させていただきました。
感想

よい点、悪い点を挙げてみます。
良い点
- 登場人物が魅力的
- 内容が分かりやすい
- 地味な時代のわりにおもしろい
【よい点1】登場人物が魅力的

「太平記(大河ドラマ)」のレビューでもありましたが、登場人物がとても魅力的。
さまざまな人々が織りなす、人間ドラマこそ、「私本太平記」の最大の魅力です。
同じ作者 吉川英治さんによる、人間模様が魅力の「新・平家物語」とよく似ています。
人を食ったような、ふざけた人から、真面目過ぎる人。
「私本太平記」では、さまざまな人物が出てきます。
さまざまな魅力的な登場人物たちが、吉川英治さんの手により、生き生きと描かれます。
特に異彩を放つのは、近江の国(今の滋賀県)の大名「佐々木道誉」。
足利尊氏にとって、ときに「ライバル」であり、またあるときは「友」。
奇抜な恰好や行動を好む一方で、腹のうちが全く読めない謎の多い人物です。

佐々木道名誉肖像画は、これ。なんだか、パッとしません。
「太平記(大河ドラマ)」で、佐々木道誉を演じた陣内孝則さん。
ハマり役で、イメージぴったりでした!

陣内さんもインタビューで、
当時は、主役の真田広之さんや緒形拳さんをはじめ、豪華な顔ぶれに囲まれ、自分自身のポジションをどこに置いて活躍するかを探っていたように思います。
共演者から多くの影響を受け、いろいろ迷った挙げ句にたどり着いたのが道誉のキャラクター。
よく100の演技力よりひとつの当たり役と言われますが、佐々木道誉はまさに僕の俳優人生のなかでは当たり役だったなと思います。
引用 NHK人物録 陣内孝則 インタビュー
果たして佐々木道誉は、「敵」か?「味方」か?
読んでいただいてご自身の目で確かめてみてください。
カリスマ性が高い?足利尊氏


足利尊氏って、どんなイメージ?
あなたは、パっと聞かれて思い浮かびますか?
私は、足利尊氏の人物像や人柄を全く知りませんでした。
しかし、「私本太平記」を読んでから、かなりの好印象を抱きました。
ひとことで言えば、足利尊氏は「カリスマ性に富んだリーダー」として描かれています。
比較対象になるのは、日本史上幕府を作った、その他の2人。
尊氏以外の人は、イメージとして最悪。
源頼朝 | 源義経をはじめ、身内や家臣粛清した「冷血漢」 |
足利尊氏 | 部下想いのカリスマ性に富んだリーダー |
徳川家康 | 豊臣秀吉亡き後、天下を謀略で奪った「たぬきおやじ」 |
「足利尊氏の高いカリスマ性」は、「私本太平記」上の物語を盛り上げるためだけの設定ではありません。
実は、史実なのです。
以下の引用は、尊氏と実際に親交のあった人物による「尊氏評」。
尊氏の人間的な魅力を、個人的に親交のあった夢窓疎石が次の3点から説明している(『梅松論』)。
1つ、心が強く、合戦で命の危険にあうのも度々だったが、その顔には笑みを含んで、全く死を恐れる様子がない。
2つ、生まれつき慈悲深く、他人を恨むということを知らず、多くの仇敵すら許し、しかも彼らに我が子のように接する。
3つ、心が広く、物惜しみする様子がなく、金銀すらまるで土か石のように考え、武具や馬などを人々に下げ渡すときも、財産とそれを与える人とを特に確認するでもなく、手に触れるに任せて与えてしまう。
引用 Wikipedia 『足利尊氏』
血なまぐさい、謀略の暗い影が常につきまとう、「源頼朝」「徳川家康」。
一方、足利尊氏は、パっと明るく器が大きい。高いカリスマ性。

尊氏のようなリーダーに、ついていきたい!
尊氏が優れたリーダーシップを発揮するシーンは、作中にもたびたび登場します。
さらに、
歴史小説家の海音寺潮五郎は「武将列伝」で、 井沢元彦は「逆説の日本史」で、 後醍醐天皇にとどめを刺さなかった点や内部抗争の処理に失敗した点を突き、 「人柄が良くカリスマは高いが、組織の運営能力の点では源頼朝や徳川家康に劣っている」 「戦争には強いが政治的センスはまるでない」と評価している。
引用 Wikipedia
多少、「抜けた」ところや、「詰めが甘い」ところもまた、尊氏の魅力をさらに引き立たせていますね。
ちなみに、私が学校で習った、足利尊氏はこれ。

でも最近は、どうも別人の絵ということで、いまはこれ。


なじみがないというか、誰これ?ってレベル。
前の鎧の方が、やはりしっくりきますね・・・
【よい点2】内容が分かりやすい

3つの理由があります。
- 敵味方は単純で分かりやすい
- 「誰だったっけ?」がない
- 文章が読みやすい
敵味方は単純で分かりやすい
敵味方の図式は簡単。
基本的に、物語全体で2つの勢力の争いです。
前半は、鎌倉幕府 対 朝廷
後半は、足利尊氏 対 後醍醐天皇
以下は、「新・平家物語」の例。
こういった図がないと、物語が理解できないものでした。

しかも、物語が進むと、「新・平家物語」では、「平家」「木曽義仲」「源頼朝」の三つ巴となり、ますます複雑に。
一方、「私本太平記」では、以下の図のように単純。

「誰が敵で、誰が味方か」といったこと考えず、サクサク読んでいけるのは、うれしい。
「誰だったっけ?」がない
主要な登場人物は、大作の割に少なめ。
- 足利尊氏
- 後醍醐天皇
- 楠木正成
- 新田義貞
- 佐々木道誉
他にも多くの魅力的な登場人物が、出てきます。
しかし、そんなに多くないため、物語を読んでいても、

あれ?これ、誰だったけ?
は、まずありません。
同じ吉川英治作品「新・平家物語」では、登場人物が、わらわらと多くの人が出てきます。
名前もそうですが、その人の立場(平家の敵?味方?)も、すっかり忘れていることも多数。
たとえば、以下の図をパっと見ていただいて、

「藤原忠通」と「藤原頼長」、藤原氏の兄弟対決。

あれ?どっちがお兄さんだったっけ?

忠通は、後白河天皇側だっけ?崇徳上皇側だっけ?
さらに物語が進むと、平清盛の弟やら息子。はたまた清盛の弟の長男、次男(甥)など登場。
もはや把握しきれなくなります。
「私本太平記」では、主要人物も少ないので、迷子になることもありません。
文章が読みやすい
スラスラッと読める、分かりやすい文章。
「格調高い」と表現される、吉川英治作品。
詩を思わせるような、文章に余韻を残しています。
「新・平家物語」同様、「滅びの美学」もチラチラ垣間見えます。
読者の心に、ずっと深く残る作品です。
ただ、「新・平家物語」同様、主要な登場人物もスパッと死んだりします。
くどくど表現せず、潔くて気持ちいい。
いわゆる、死亡フラグ的なものもなく、あっさり逝きます。
読みながら、

あれ?今、死んだんじゃない?
戻って読み返す。
このあたりは、「新・平家物語」と同じですね。
以上、よい点2つ目、「内容が分かりやすい」という話でした。
【よい点3】地味な時代のわりにおもしろい

「私本太平記」を読み終わった私からお伝えしますと、
- 人気の高い「戦国時代」「幕末」。同じくらいおもしろい南北朝時代
- さすが吉川英治。地味な題材もおいしく料理。
- もっと多くの人に楽しんでもらいたい
「太平記(大河ドラマ)」は、べた褒め状態(アマゾンレビュー)。
「戦国時代」「幕末」よりおもしろくないと、食わず嫌いの方も多い南北朝時代。
騙されたと思って、一度「私本太平記」を手に取ってみてください。
魅力的な登場人物たち。
生き残りをかけ、戦乱の時代を生きる人々の人間模様。
「戦国時代」「幕末」に決して見劣りすることがない、おもしろさがあるからです。
悪い点
かなりおもしろい「私本太平記」ですが、1つだけ気になる点があります。
- 後半が雑
【悪い点】後半が雑
物語の最後のあたりは、かなり駆け足で話が進みます。
今まで丁寧に描いてきた物語が、ウソのように雑。
その原因は、作者 吉川英治さんの病気によるものです。
最晩年の病床で執筆したためであり、完結した翌年、吉川は死去している。
引用 wikipedia 私本太平記
吉川英治さんが、一番残念な想いを抱いていたことは想像に難くない。
これだけの傑作が、もし「未完」で終わるようなことになれば、本当に残念すぎます。
終わり方は一応は、納得できる形になっています。
病身で書きながらも、今まで積み上げてきた物語を、台無しになっていません。
もし病気でなければ、足利義満による南北朝が統一まで、作品を読みたかったというのが本音。
フレンチフルコースを、とてもおいしく食べ終わった。
最後のデザートだけが、ほんのちょっと残念。
でも、全体の料理としては、とてもおいしくて大満足!
そんな感じです。
以上、物語の最後の最後が、雑で残念という話でした。
まとめ:後半は駆け足気味ながら、吉川英治らしさがキラリと光る、軍記物語の傑作

この記事では、吉川英治「私本太平記」の魅力をお伝えさせていただきました。
作者 吉川英治さんが病気のためという理由で、最後の方は駆け足気味。
しかし、吉川英治「新・平家物語」と並んで、かなり面白い作品です。
吉川文学の特徴である「格調高い」文章。
南北朝時代を舞台に、描かれるさまざまな人間模様。
多くの方に、興味をもっていただき楽しんでいただければ幸いです。